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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)12263号 判決

原告

白子廣三

ほか一名

被告

大串茂

ほか二名

主文

被告大串茂及び被告大串里子は各自、原告白子廣三に対し、一二一六万円、原告白子喜久に対し、一一一七万円及びこれらに対する昭和五九年八月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告井上敬嗣は、原告白子廣三に対し、四〇五万二〇〇〇円、原告白子喜久に対し、三三六万二〇〇〇円及びこれらに対する昭和五九年八月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、被告大串茂及び被告大串里子と原告らとの間に生じた費用はこれを五分し、その三を被告大串茂及び被告大串里子の、その余を原告らの各負担とし、被告井上敬嗣と原告らとの間に生じた費用はこれを五分し、その一を被告井上敬嗣の、その余を原告らの各負担とする。

この判決は、第一項及び第二項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告白子廣三(以下「原告廣三」という。)に対し、二一五五万一五三三円、原告白子喜久(以下「原告喜久という。)に対し、一九四五万二六三八円及びこれらに対する昭和五九年八月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五九年八月一日午後零時五〇分ころ

(二) 場所 栃木県小山市大字神鳥谷三〇三番地国道四号線上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 関係車両一 普通乗用自動車(足立五七そ四二四五、以下「加害車Ⅰ」という。)

(四) 右運転者 被告大串茂(以下「被告茂」という。)

(五) 関係車両二 自動二輪車(大宮も八八九九、以下「加害車Ⅱ」という。)

(六) 右運転者 被告井上敬嗣(以下「被告井上」という。)

(七) 被害者 白子良二(以下「亡良二」という。)

(八) 事故の態様 被告井上が加害車Ⅱの後部座席に亡良二を乗車させ、同車を運転して道路左側を進行中、同一方向に走行していた被告茂運転の加害車Ⅰが、道路左脇の駐車場に進入しようとして、左に転把したため、両車が衝突し、亡良二が右前方に放り出され、路上に落下したところを加害車Ⅰの後方を走行していた小川一夫運転の大型貨物自動車(栃一一あ二七四六)に轢過され、悩挫傷により死亡した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告茂は、加害車Ⅰを運転し、被告大串里子(以下「被告里子」という。)は、同車を所有し、ともに同車を自己のために運行の用に供していたものであり、被告井上は、加害車Ⅱを所有し、運転していたものであり、同車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

亡良二及び原告らは、次のとおり損害を被つた。

(一) 逸失利益 四二五五万五二七七円

亡良二は、昭和四一年二月一三日生まれの死亡当時満一八歳の男子で、予備校に在学中であり、昭和六〇年四月に大学に入学し、昭和六四年四月から就労を開始するはずであつた。そして、昭和五八年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・大卒、全年齢平均の男子労働者の平均賃金は四七二万三九〇〇円であり、昭和六四年まで毎年五パーセントの賃金上昇があることは確実であるから、同年における平均賃金は、少なくとも六〇二万九〇二六円になつているから、就労可能年齢満二三歳から六七歳までの四四年間、生活費控除率を五〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、亡良二の逸失利益は次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)

六〇二万九〇二六円×(一-〇・五)×(一七・六六二七-三・五四五九)=四二五五万五二七七円(円未満切捨て)

(二) 相続

亡良二は、右損害賠償請求権を有するところ、原告らは、亡良二の両親であり、相続人であるから、亡良二から右損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続した。

(三) 原告らの慰藉料 各一〇〇〇万円

亡良二の死亡によつて原告らが受けた精神的苦痛は極めて大きく、それを慰藉するためには右金額が相当である。

(四) 葬儀費用 二〇九万八八九五円

亡良二の葬儀費用として、原告廣三が右金額を支出した。

(五) 損害のてん補

原告らは、自動車損害賠償責任保険から各一三五〇万円の支払を受けた。

(六) 弁護士費用 各一六七万五〇〇〇円

原告らは、被告らが任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告ら代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼し、着手金として八五万円を支払い、報酬として弁護士報酬規定によつて二五〇万円を支払うことを約し、原告らにおいて各二分の一ずつ負担することとした。

合計

原告廣三につき 二一五五万一五三三円

原告喜久につき 一九四五万二六三八円

よつて、被告ら各自に対し、原告廣三は、右損害金二一五五万一五三三円、原告喜久は、右損害金一九四五万二六三八円及びこれらに対する本件事故の日の後である昭和五九年八月一日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告茂及び被告里子)

1 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2 同2(責任原因)の事実中、被告茂は、加害車Ⅰを運転し、被告里子は、同車を所有し、ともに同車を自己のために運行の用に供していたことは認める。

3 同3(損害)の事実中、原告らが自動車損害賠償責任保険から各一三五〇万円の支払を受けたことは認め、その余は知らない。

(被告井上)

1 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2 同2(責任原因)の事実中、被告井上は、加害車Ⅱを所有し、運転していたことは認める。

3 同3(損害)の事実はすべて知らない。

三  抗弁

(被告茂及び里子)

過失相殺

被告茂は、加害車Ⅰを運転して国道四号線を時速約三〇キロメートルで進行していたが、本件事故現場脇の駐車場へ左折するため手前約三〇メートルの地点で左折の合図を出し、左折をするに当たり、左後方を確認したところ、自車のすぐ後ろに大型貨物自動車が続いていたため、その陰になつて遠くまでの見通しは困難であつたものの、約五〇メートル後方まで見通すことはでき、その間には路側帯を進行してくる車両はなかつた。そこで、左折を開始し、自車後部が歩道を画す縁石付近まで達したとき、被告井上運転の加害車Ⅱが加害車Ⅰの左後部に衝突したものである。被告井上は、道路が渋滞ぎみであり、他の車両が時速三〇キロメートルで走行しているのに苛立ち、先を急ぐ余り、路側帯をかなりの高速で進行し、急制動の措置を講じたものの、加害車Ⅰに衝突したものである。右のように被告井上にも相当な過失があり、亡良二は、加害車Ⅱの後部に乗車していた者であるところ、前記のような被告井上の無謀な運転による危険を予知し得たはずであり、また、被告井上と亡良二は、亡良二が惹起した別の交通事故の事情聴取を受けるため栃木県鹿沼警察署に赴く途中であり、急いでいたものである。そうすると、亡良二には被告井上の無謀運転を放置し、これを容認していた過失があり、また、ヘルメツトは装着していたものの、それが不完全であつたものであり、亡良二の以上の過失は、本件事故の発生につき、三割を下らないものがあるから、原告らの損害賠償額の算定に当たつては、右過失を充分に斟酌して相当額を減額すべきである。

(被告井上)

好意同乗による減額

被告井上は、亡良二に頼まれ、亡良二が惹起した別の交通事故の事情聴取を受けるため呼出を受けた栃木県鹿沼警察署に赴くために同人を同乗させていたものであり、原告らの損害賠償額の算定に当たつては、右事情を充分に斟酌して相当額を減額すべきである。

四  抗弁に対する認否

いずれも争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実中、被告茂は、加害車Ⅰを運転し、被告里子は、同車を所有し、ともに同車を自己のために運行の用に供していたことは、原告らと被告茂及び被告里子間で争いがない。被告井上は、加害車Ⅱを所有していたことは、原告ら被告井上間で争いがなく、他に特段の主張、立証はないから、被告井上は、加害者Ⅱを自己のために運行の用に供していたものというべきであり、被告らは、いずれも自賠法三条の運行供用者責任により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

三  同3(損害)の事実について判断する。

亡良二及び原告らは、次のとおり損害を被つた。

1  逸失利益 三二四三万一三九四円

成立に争いのない甲一号証、乙八号証、原告廣三本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡良二は、昭和四一年二月一三日生まれの死亡当時満一八歳の男子で、予備校に在学中であり、順調に推移すれば、昭和六〇年四月に大学に入学し、大学卒業後就労を開始するはずであつたものと認められる。そうすると、最新の昭和五九年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・大卒、全年齢平均の男子労働者の平均賃金は四八九万四一〇〇円を基礎とし、就労可能期間は、満二三歳から六七歳までの四四年間、生活費控除率を五〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、亡良二の逸失利益は次のとおりの計算式により右金額となる。なお、原告らは、賃金の上昇を主張するがその事実を認めるに足りる証拠はない。

(計算式)

四八九万四一〇〇円×(一-〇・五)×(一七・九八一〇-四・三六四三)=三三三二万円(一〇〇〇円未満切捨て)

2  相続

亡良二は、右損害賠償請求権を有するところ、前掲乙八号証及び原告廣三本人尋問の結果によれば、原告らは、亡良二の両親であり、相続人であることが認められ、原告らは、亡良二から右損害賠償請求権を各二分の一ずつ(各一六六六万円)相続したものである。

3  原告らの慰藉料 各七〇〇万円

本件訴訟に顕われた諸般の事情に鑑みると、亡良二の死亡によつて原告らが受けた精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当である。

4  葬儀費用 九〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告廣三が亡良二の葬儀費用として、相当額の支出をしたことが認められるが、そのうち右金額が被告らの負担すべき金額である。

小計 原告廣三 二四五六万円

原告喜久 二三六六万円

5  被告茂及び被告里子の過失相殺の抗弁について判断する。

(一)  成立に争いのない乙一号証から七号証まで、第九号証、被告茂、被告井上各本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、古河市方面(南方)から石橋町方面(北方)へ通じる歩車道の区別のある車道幅員一〇メートルの片側一車線の国道四号線であり、古河市方面から石橋町方面への車線は幅員五メートルで、歩道寄りの一部が路側帯となつている。指定最高速度は時速五〇キロメートルに規制されており、直線で見通しは良く、路面は平坦でアスフアルト舗装がされ、本件事故当時は乾燥していた。

被告井上は、加害車Ⅱを運転して、右道路を古河市方面(南方)から石橋町方面(北方)へ走行していたが、道路が混雑し、車両の進行が比較的緩慢であつたため、路側帯を車両の左脇をすり抜けるように走行していた。

被告茂は、加害車Ⅰを運転して、右道路を被害車と同方向の古河市方面(南方)から石橋町方面(北方)へ走行していたが、本件事故現場左側のパチンコ店の駐車場に進入するため、左折しようとし、後方を確認したものの自車の後部を大型貨物自動車が走行しており、左後方の見通しが困難であるにもかかわらず、左折を開始し、おりから、路側帯を車両の左脇をすり抜けるように走行していた加害車Ⅱに自車後部を衝突させ、本件事故を発生させたものである。ところで、亡良二は、加害車Ⅱ後部に乗車していたものであるが、ヘルメツトを被つており、運転について被告井上に指図したりしたことはなかつた。

以上の事実が認められ、右認定の事実を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右事実に徴すると、亡良二には本件事故発生につき何らの過失も認められないから、被告及び被告里子の過失相殺の抗弁は理由がない。

6  好意同乗による減額

(一)  前掲乙五号証及び被告井上本人尋問の結果によれば、亡良二は、本件事故に先立ち、別の交通事故を発生させており、亡良二は被疑者、被告井上は目撃者として、栃木県鹿沼警察署から事情聴取を受けるため呼出しを受け、被告井上の自動二輪車に同乗して同警察に出頭することになり、その出頭の途中に本件事故に遭つたものと認められ、右認定の事実に反する証拠はない。

(二)  右事実に徴すると、亡良二は、被告井上の好意で加害車Ⅱの後部座席に乗車していたものであり、同乗目的その他諸般の事情を考慮すると、被告井上に対する関係で、総損害から三割を減額するのが相当である。

小計(被告井上に対し)

原告廣三 一七一九万二〇〇〇円

原告喜久 一六五六万二〇〇〇円

7  損害のてん補

原告らが自動車損害賠償責任保険から各一三五〇万円の支払いを受けたことは、原告らと被告茂、被告里子間においては争いがなく、原告らと被告井上間においては原告らの自陳するところであるから、原告らの損害額から控除することとする。

小計(被告茂及び被告里子に対し)

原告廣三 一一〇六万円

原告喜久 一〇一六万円

(被告井上に対し)

原告廣三 三六九万二〇〇〇円

原告喜久 三〇六万二〇〇〇円

8  弁護士費用

弁護士の全趣旨によれば、原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告らに損害賠償を求めうる額は、被告茂及び被告里子に対しては、原告廣三が一一〇万円、原告喜久が一〇一万円、被告井上に対しては、原告廣三が三六万円、原告喜久が三〇万円とするのが相当である。

合計(被告茂及び被告里子に対し)

原告廣三 一二一六万円

原告喜久 一一一七万円

(被告井上に対し)

原告廣三 四〇五万二〇〇〇円

原告喜久 三三六万二〇〇〇円

五  以上のとおり、被告茂及び被告里子各自に対する原告らの本訴請求は、原告廣三については一二一六万円、原告喜久については一一一七万円及びこれに対する本件事故の日である昭和五九年七月二〇日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、被告井上に対する原告らの本訴請求は、原告廣三については四〇五万二〇〇〇円、原告喜久については三三六万二〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和五九年七月二〇日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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